ちょっと待って、もう23日なんて早すぎる…
年末年始を終えて、何か学業面でハーベスト得たっけ?と今必死に振り返ってるんですけど、
YouTube Music Weekendでバニラズ武道館のライヴ映像を毎日開いてノリノリだったことしか記憶にない件。
最初「Weekend」って書いてあるので、これまさか来週には消えちゃう超レアなやつ?!と必死に見貯めしていたら、
気付けば年を越しても見続けていました。いやDVD持ってるねんけどな。こんなに引き延ばしてくれるなんて、サービス精神旺盛すぎやしませんか…。
さすがに全曲ではありませんでしたが、知名度ある曲はほぼ全部見せてくれたんじゃ?ってくらい太っ腹な一時間でした。
中でも、瞬間視聴回数が特に多くておっ?と思ったのが
デッドマンズチェイスと
TTNoWです。
今回のライヴ映像でMVのない曲はこの二曲だけなので、初見のリスナーはそりゃ気になりますよね!
ということで本日は、
そのうちの一曲
「TTNoW」について語りたいと思います!
この曲は、2020年6月3日にリリースされた7thシングル「アメイジングレース」のカップリング曲として収録されています。
思えば年々サウナ愛が増しているように見える牧達弥様。
そもそも、日本武道館という大舞台でこれを選曲した時点でサウナへの非常に強い思い入れが伝わってきます(笑)。「バニラズファンはもれなくみんなおいおいサウナーにしていくんで、どーぞよろしく!」と言い放った瞬間の輝きに満ちた表情は忘れられません。
今回は、そんなサウナをテーマにした異色の楽曲「TTNoW」をご紹介したいと思います。
※すべて私個人の解釈となりますので、ご理解いただけますと幸いです。
🍦サウナという新鋭的な着眼点
最初にご注目いただきたいのが、
「TTNoW」というぱっと見読めないタイトル名。
「なんだティーティーナウって?」と思われた方もいらっしゃるかもですが、
正しい読み方は「トトノウ(ととのう)」です。
※ちなみに「ととのう」とは…
サウナ、水風呂、休憩を繰り返すことにより、心身ともに整った状態を指す。サウナハイ、サウナトランスともいわれ、瞑想効果や心身のバランス調整に効果的です。
Quoted from:ととのうサウナの入り方 | 野天湯元 湯快爽快 ちがさき (yukaisoukai.com)
さらに調べてみると、「ととのう」はサウナーの間ではごく一般的に使われているサウナ用語で、ここ数年話題の健康法としてメディアでも盛んに取り上げられている沸騰ワードでもあるそう。
そんな「最近トレンドになりつつあるちょっぴりおしゃれなヘルスケア」としてのサウナを、現代風のダンスチューンに仕立て上げるという発想はなかなか画期的です。
この曲が武道館で披露された時は、鍾乳洞を思わせる赤色や碧緑色のレーザーライトと地下からもくもく沸き立ってくる湯煙の演出、そしてぽたんぽたんとスローモーで落ちゆく雫の効果音で、画面越しでも本当にバーチャルサウナ体験をしたような気分になりました。
個人的にこの曲最大のポイントは、歌詞やサウンドよりもむしろ「サウナ」という着眼点そのものだと思っています。
考えてみれば、サウナとバニラズには決定的な共通点があります。
サウナは長い歴史があるにも関わらず、廃れるどころか令和になった今でもブームを牽引しており、愛好家は後を絶ちません。
また老若男女問わず楽しめるほか、日本の伝統的な温泉や銭湯という枠にとどまらず、ロシアのバーニャ、韓国の汗蒸幕、フィンランドのロウリュなど、かたちを変えて世界各国に存在します。もはや時空や国境、ジェンダーやジェネレーションの壁をも超越して愛されている文化ですよね。
そして奇遇なことに、私の思うバニラズも
東洋と西洋、日本と海外、レトロとモダン、アナログとデジタルが絶妙に融合したボーダーレス・ロックバンドなんです。
かといって巷にそこまで浸透してるわけではなく、分かる人には分かるというサブカル的なところもサウナと通じる部分がある気がしてなりません。え、私何か変な事言ってる?
牧さんはサウナーであり、この歌も純粋にサウナ愛が高じて出来上がってしまったんだと思うんです。
でも、
なんだろ、この似た者同士が出逢ってしまった感は。
古いようで、新しい。
ユニバーサルなのに、ユニーク。
この「不思議な二面性」を併せ持ったクセのある二つのカルチャーを引き合わせると、最高にホットでクールなケミストリーが生まれるわけです。
つまり、バニラズ × サウナ = お洒落の極み。
バニラズがサウナをテーマに選んだ時点でもう勝ちなんです。(伝われ。)
🍦センスの冴えわたった言葉遊び
「TTNoW」の特徴として次に挙げるべきなのが、ひねりの効いた個性的な歌詞ではないでしょうか。
※歌詞をフルで見たい方はこちら ↓ から!
go!go!vanillas TTNoW 歌詞 - 歌ネット
最初に目に付くのがそのタイトル。
「TTNoW」のアルファベット「T」は涙などの液体が流れ落ちる様子を俗に表し、顔文字でも多用される記号ですよね。
「TT」と「NoW(今)」で「汗流してるなう」と見えるのに加えて、全体の読み方は「ととのう」というトレンド用語。粋すぎて感心しちゃいます。
そして、イントロからすでにダダ漏れの遊び心とサウナ愛。
give you love & peace
湯浴び行こう
耳コピだと「give you love & peace」はかろうじて聞こえても、まさか次に「湯浴び行こう」って言ってるなんて誰も思わないんじゃないでしょうか。(笑)
私も最初「you have been gone(お前はもう死んでいる)(すみませんこんな意訳しか出てこなかった)」と聞こえていたので、後で歌詞カードを見てひっくり返りそうになりました。(笑)
くすっと笑える屈託のない歌詞。しっかり読んだ後にもう一回曲を聴くと、よりディープな世界が広がってますます面白い。
そこからは、サウナルームという無我の境地が牧さん独自の視点で巧みに描かれてゆきます。
10回の裏延長戦 テレビに釘付けサウナルーム
我慢比べさ 男の意地 忘れかけていたそんな気持ち
頭 体 位置についてヨーイのドンでいつ何賭けても勝てないよ
のらりくらりと上手くかわして ただ煙に巻いて
汗もかかずでしたわ なにも知らずでしたわ
「10回の裏」「釘付け」「ヨーイのドン」「のらりくらり」「煙に巻いて」など日本語母語話者ならではの難解用語が頻出していて、海外輸入感のある最先端サウンドとのなんともオシャレなコントラストを魅せています。
特に「煙に巻く」という慣用句は元々「(言葉等で)相手をごまかす」という意味があるため、
サウナ室の煙と慣用句の煙を掛けた「ただ煙に巻いて」というフレーズは逸脱と言わざるを得ません。どっちの意味にも掛かってるという。
ですが私自身、
Aメロ以上にオシャレだな!と思うのが、続くA’メロ部分。
こんな熱ちぃのかよ10分で
A型には気になる12分計
あと2分絶え絶えダラダラ汗免れ
安らか流れるオアシスへ急げ
この4行、何がすごいって
韻の踏み方。
分かりやすいように、ひらがなでもう一度。
こんなあちぃのかよ10ぷんで
Aがたにはきになる12ふんけ(い)
あと2ふんたえだえダラダラあせまぬがれ
やすらかながれ(る)オアシスへいそげ
見ての通り、主に「え」行で韻が踏まれているのが分かりますね。
この言葉達、実は、
ほぼすべての品詞の種類が異なるんですよ……!!
10ぷんで → 格助詞
12ふんけ(い)→ 名詞(合成語)
たえだえ → 形容動詞
あせ → 名詞(単純語)
まぬがれ → 動詞(連用形)
ながれ(る)→ 動詞(連体形)
オアシスへ → 格助詞
いそげ → 動詞(命令形)
なんという美しさ。
表面上はただサウナについてマニアックに語ってるように見えて、実はそれぞれ異なる種類の品詞を駆使して韻を踏むという小細工を仕込んでいるんですね…!
サウナルームという小さな空間で繰り広げられる、漢(おとこ)同士の我慢比べ。
野球のテレビ中継で気を紛らわせながら、とめどなく流れる汗とともに室内の熱気にじりじり耐え続ける様子はまさに「闘い」です。
音を上げたい気持ちとせめぎ合い、男の意地で耐え抜くこと12分。
やっとの思いで脱出した後は「安らか流れるオアシス(=水風呂)」へと直行です!
キリッと冷えクレイジー 上がって外気浴で気分は
好きになる 全てが好きになって 本当になってく
水風呂を「キリッと冷えクレイジー」と真夏の炭酸飲料のように一言で形容する潔さ。
ここで水風呂のシーンが一瞬なのも、実際の時間配分に基づいているようで臨場感ありまくりです。
仕上げは「外気浴」、いわば「ととのう」タイム。
専門家によると、この「外気浴」こそが一番の醍醐味だそう。
サウナ室で「熱い!」、水風呂で「寒い!」、外気浴で「ほっとする」という環境の変化にさらされることで、アドレナリンが残っているけどリラックスもしているという稀有な状態になるんです。これが「ととのう」の一側面です。
Quoted from:「サウナでととのう」とは医学的にどういう状態なのか? | だから、この本。 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
サウナーには男性が多いからか、心身共にととのっていく有様を「究極の快感!」「サイコーに気持ちいい!」などとガッツリ表現しているサウナ誌は後を絶ちません。
でも私はこの「好きになる」という表現が一番好きです。しおらしくて、上品。
牧さんはこの「ととのう」タイムについて、二番でもこのように表現しています。
きつくなって 極まって 不純な物無くなって
シグナル 心までハッピー
あぁ、なんてピースフルな言い方……♡
それもそのはず。この曲に追随するもう一つのテーマは「癒し」と「love & peace」。決して猛々しい快楽の爆発などではありません。
その「ととのう」の素晴らしさを高らかに謳歌する重要な部分が、サビです。
gone everything gone 癒しをhuman being
go 銭湯に行こう 癒しを浴びろ
風呂 あ、プラシーボ?(from ah placebo)
いやfeeling superman please
go everything go 癒しをhuman
「(goneにかかる)everything=不純な物」
「(goにかかる)everything=世界の万物」
みたいな感じでしょうか。(笑)
「癒し」を幾度も唱えつつ「feeling superman」と歌うところは、まさに先ほど取り上げた「アドレナリンが残っているけどリラックスもしているという稀有な状態」を再現してくれているかのよう。
そして地味に気に入ってるのが、「湯浴び行こう」並みに破壊力のある「風呂 あ、プラシーボ?」のフレーズ。
※プラシーボ(プラセボ)とは…
有効成分が含まれていないくすりを、本物のくすりとして患者さんに使用してもらったときに、ある程度の割合で治ってしまうことがあります。これはくすりを飲んだという安心感が、体にひそむ自然治癒力を引き出しているとも言われています。
Quoted from:あなどれない偽薬(プラセボ)効果|大日本住友製薬 健康情報サイト (ds-pharma.jp)
風呂を「プラシーボ効果かもしれない」と言ってのけてしまえるくらい、銭湯に行ってサウナに入るという一連の流れには、身体的な効能よりも精神的な安らぎをもたらす効果があるということでしょうか。
そこまで言われると熱意に負けるというか、自分もサウナーデビューするしかないな…と感じます。(笑)水風呂すら入った事ないので……
🍦時空を越えたuniversal anthem
今までの内容をまとめると、
この曲の全体的なテーマは「ととのう」を通して得られる心の「癒し」と「love & peace」。
しかし、このテーマを取り巻く全体の空気感に対して妙なちぐはぐ感が拭えないのは私だけでしょうか。
「A型」「シグナル」「プラシーボ」など科学寄りの専門用語と、どことなくSFを彷彿とさせるデジタルサウンド。
そこに「ヨーイのドン」「掛け湯」「御法度」など何百年も前から受け継がれていそうな昔ながらの日本語や「feeling superman please」「from ah placebo」など昭和のファンシー文具にありそうな和製っぽい英語が入り混じり、
全部ちゃんぽんになってなんとも摩訶不思議な雰囲気を創り上げています。
昔ながらの日本語 :近世
和製っぽい英語 :近現代
科学寄りの専門用語:近未来
この三つの時間区分がランダムに交ざり合うと、どこか昔懐かしいのに洗練された、まるで「一昔前から見据える最先端」が出来上がってしまった感じがしますね。
牧さんはTTNoWに関して、あるインタビュー記事でこんなことを言っています。
ロックって何?っていうところに立ち返ったときに、60年代なんて、みんなが新しいところを目指して音楽を作っていた時代でもあって。そこの恩恵を受けて自分たちは音楽をやれているのもあると思っているから、クリエイティブな面で自分ももっと新しい音楽を生み出していけたらなっていうところから向き合った曲でもあったというか。でも、かといって、歌詞で近未来的なことを歌うのかって言ったらそういうことではなくて。レトロフューチャーみたいなところが個人的にすごく好きだったりもするので、そういうところに着地させたかったんですよね。
Quoted from:go!go!vanillas、待望のプリティ復帰、約1年ぶりの新作「アメイジングレース」 | スペシャル | Fanplus Music
そうか。これこそが「レトロフューチャー」なのか…!
レトロフューチャーというと、
過去の人々、特に1970~1980年代の科学技術が急成長し始めた時代の人々が思い描いていた未来像のことで、空飛ぶ自動車やロボット執事、鉄腕アトムの世界観などがその例です。
ただ、レトロフューチャーという時代の縦軸だけで完結させたくないのが、この曲のさらに面白いところ。
よくよく聴くと、
サウナへの讃美ともとれるリリックやパイプオルガンを想起させる音作り、ゴスペルのクワイア隊を意識したようなコーラスなど、
神聖なベールをまとった讃美歌のような新たな側面にも気付かされます。
思えば、地元のサウナで「ととのう」体験ってめっちゃええで~!という内容を言ってるに過ぎないのに
「give you love & peace」「癒しをhuman being」等々、何かとスケールがでかい。
海外という横軸も通して全人類に高らかに啓蒙できるのは、世界中で広く愛されている「サウナ」という特異なテーマならではではないでしょうか。
「ととのう」ことによって、国籍、性別、年齢を問わない全ての人が「癒し」の恩恵を受け、愛と平和で満たされますように。
この曲はそんな世界規模の願いが込められた、アメイジングレースに次ぐもう一つのアンセム(讃美歌)でもあるのです…!
🍦さいごに
地元の銭湯を舞台に、色んな年代・ジャンルの言葉をごちゃ混ぜにして「サウナ」という全人類共通の娯楽文化を謳った異色の楽曲TTNoW。
時空を飛び越えて色々つぎはぎ合わせた感じも、その絶妙なバランスによって逆にファッショナブルに映ってしまう、不思議だけどなんともオシャレなナンバーに仕上がっています。
振り返ってみると、今回の楽曲「TTNoW」には細かい仕掛けやニュアンスがいたる所に隠されており、解剖するにあたってとてつもない時間と労力がかかってしまいました。(笑)
牧さんが本気で(ととのった状態で?)クリエイティビティを発揮したらこんなに面白い楽曲ができるんだなぁ……と敬服。
神秘的なサウナの世界も知れば知るほど奥深いので、
私も近日中に「ととのう」体験をしに銭湯へ伺いたいと思います。
健康に良いことづくしって聞きますからね!
それでは、また。♡